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科学な本のご紹介:  君は沖縄戦戦死者のアイソトープを見たか! 同位体比分析による戦没者遺骨鑑定の試み

科学に佇む書斎

いらすとや沖縄mix

 ビックリドッキリ誰も見てないスゴイ演題 



一般市民向けの科学講演会なのに、会場全席160席!あるのに、聴衆が10人ちょい😱!(関係者含む!)しかいない!😱という前代未聞に恐ろしくも楽しい講演会にうっかり遭遇してしまったので、あまりにビックリドッキリだったので、書く。書くぞ。

日本人類学会講演会
『歯は生まれ故郷の記憶を刻んだタイムカプセル 同位体比分析による戦没者遺骨鑑定の試み』
2018年10月3日 札幌医科大学記念ホール

講師 染田英利 そめだ ひでとし
 防衛医科大学校 解剖学講座

客席ガラガラなのに手を抜かずにきっちりわかりやすい話をしてくださった染田先生、真剣にありがとうございます 🙇




 あなたの身体は食べたものでできている 



染田先生は、遺骨や歯に含まれる元素の違い(同位体比)を分析して、身元不明遺体の出身地域の推定をする研究をなさってる。
それも「成分の違い」じゃなくて、「原子の違い」。
出身地によって「食べる原子の種類=身体に入る原子の種類」が違うんですよ。

どう違うかと言うと、まず「炭素原子」、この「炭素原子」には世の中3種類あるんですね。
同じ炭素原子でも、持ってる中性子の数が違ってるやつがおりまして、
 炭素には、三つの同位体がある(12C,13C,14C)。
 存在量は、12Cが98.89%、13Cが1.11%であり、14Cはごく微量なレベルである。
 14Cは放射性同位体であり、その半減期が5730年であることから考古異物の年代測定にしばしば用いられる。
 日下宗一郎著→●本『古人骨を測る 同位体人類学序説』

それでこの、同じ炭素でも「中性子の数」が違う同位体(アイソトープ)さんたちは、それぞれ何がどう違ってくるかと言うと、重さが違う、そして「軽い同位体のほうが熱力学的に反応しやすい」のだそうな。
だから
・気温が高い土地のほうが重い同位体が多めに取り込まれる!
・植物では生理的仕組みの種類によって、同じ炭素でも取り込む同位体の含有割合が違ってくる!
そして
・動物の骨や歯の「同位体比」を調べれば、どんなタイプの植物を食べていたかがわかっちゃうんだと!

そのわかっちゃう便利さ度合いは、
・ウマやサイの祖先は1000万年くらい前から木の葉食をやめて草を食べはじめたぜ!
・440万年前のヒト祖先アルディピテクス・ラミダスは森のなかで木の葉や木の実を多く食べていたけど、300万年前のアウストラロピテクス・バールェルガザリはサバンナ暮らしだったみたいだよ!

おう、原子同位体すげぇ。

いらすとや原子




2018年10月 AFP 3500年前のエジプトで水産養殖、最古の証拠発見 研究
 遺跡複数から出土した魚の歯100個を調査
 酸素同位体を調べ、これらの魚が「閉鎖された潟湖の中で4か月間以上過ごしていた」ことを推定
 エジプトから輸入された魚がすべて「皿(に合う)サイズ」



 「同位体比」は食べたもの≒出身地を記録している 



さて、今回の本題は、ウン百万年前などという化石の話じゃなくて、現代の「身元不明遺体の出身地域の推定」だ。
遺体の「同位体比」を調べると、だいたいどの地方出身の遺体であるのかがわかってくると。



調査の対象は「戦没者の遺骨」。
「同位体比」の調査に用いる部位は、「歯」と「骨」だ。


「歯」は生え変わったり代謝したりしない関係で、「20歳ごろまで」の飲食の「同位体比」を記録している。
「骨」は骨細胞が代謝する関係で、死ぬ前の10年ぶんくらいに取り込んだ「同位体比」を記録している。
そりゃもう両方調べることができればなおいいわけで。

染田先生たちが行っている調査はニュースにもなっている。

2014年11月 産経新聞 戦没者遺骨 歯や骨元素比率で日米将兵の遺骨を識別 防衛医大などのグループ考案
 防衛医大の染田英利助教や北里大医学部の覚張(がくはり)隆史特別研究員らのグループが考案
 「分析は歯1本や遺骨0・5グラムからでも可能で、1〜2週間でできるため、実用化すれば遺骨の混在問題に大きな影響を与える。今後詳細な分析も進めながら精度を高めたい」

「遺骨の混在問題に大きな影響を与える」
なんだそれは。




 沖縄の現場では戦死者とご先祖の区別がワヤに… 




沖縄では、今も「ガマ(沖縄の自然洞窟)」や防空壕、そしてお墓に、戦死者の遺骨(地表骨)が散在しているという。
「お墓に散在している」というのは、沖縄では自然の洞窟や「亀甲墓:人が何人も入れるほど大きな祠」をお墓としてお骨を収める風習があって、これややこしいことに、「防空壕としてお墓にこもって戦死した」人のお骨が戦前のご先祖様のお骨と入り乱れている場合が少なくない。

いらすとや沖縄亀甲墓

そして、その「散在している」とされる遺骨(地表骨)を、ご先祖様のお骨までごっちゃに、ボランティア(学生や宗教者…)さんたちが戦没者のお骨として収集してくださってしまうことがあるのだという。
実際、ある日突然ご先祖のお骨がお墓から消えてなくなるという事件が沖縄では数多く発生している。

2010年代に入ってようやく「戦没者遺骨のスクリーニング(同位体比などのちゃんとした分析)」が行われるようになると、以前は新しく拾われてくるお骨の数がなんだかんだ毎年100柱にものぼっていたのが、今は年に20〜30柱程度に落ち着いているんだそうな。
(遺骨の数え方は1柱、2柱…です)
というか、これまで間違って拾われてきてしまったお骨は… とか、お骨を失った遺族は… とか、お骨拾いに参加する人々の動機や素性は…、加えて、2017年に地元沖縄の墓荒らしをやらかして炎上した沖縄の子たちがいたこともまだ記憶に新しいし、もちろん数々の戦没者が背負ったものは重すぎるし、なんかもうこのくだりだけで危ないドキュメンタリーが何本も成立しちゃいそうな勢いの世界ではないですか!
 suji






 沖縄の戦没者遺骨を鑑定する 



新しくなった沖縄の「戦没者遺骨のスクリーニング」体制では、同位体比分析も含めて、一年かけてじっくり遺骨の鑑定をすすめているという。

その骨は戦没者のものか、それとも古い古いご先祖さまのものなのかは、遺骨や歯の【炭素・窒素の同位体比】を調べれば違いが出てスッキリする。
また、人類の核実験によって1950年以降に炭素のC14が急増している時期があるので、【C14が多いお骨】は戦後に生きていた人のお骨だとみなせる。

同じ日本兵の中でも、沖縄戦には北海道出身の部隊がたくさん派兵されているわけで、
北海道出身者については、骨に含まれる【酸素や硫黄の同位体比】が沖縄民とは大きく違うので識別できるのだ。

同じ人類でありながら、飲み食いするものの違いでこんなに成分が違ってくるとはなぁ。

いらすとやシーサー いらすとや北海道地図




 フィリピンの戦没者遺骨を鑑定する 



2018年からは、厚労省委託事業として、フィリピン🇵🇭での遺骨鑑定にも同位体分析を導入するようになったんだそうな。


このフィリピン🇵🇭での遺骨収集でも、日本兵以外の現地民さんや米兵さんの遺骨がいろいろと混じってしまっているわけで、ここでも同位体比分析が大活躍。

トウモロコシ(重い同位体を蓄積したがるタイプの植物!)を食べる頻度が多いアメリカ人🇺🇸は、【炭素の同位体比】を調べれば日本人🇯🇵やフィリピン人🇵🇭とは大きく違ってくるのでわかりやすい。

地質の新旧で違ってくる【ストロンチウムの同位体比】も、日本人🇯🇵とフィリピン人🇵🇭の識別に使える。
日本の地質より、フィリピンの地質のほうが全般に新しいんだ。




 歯をわけてください 



同位体比の分析がうまくできても、比較対象の資料がじゅうぶんそろっていないと、その遺骨がどこ出身なのかは判断しづらくなる。
研究者さんは、日本各地の居住者の歯を集めて、比較用資料を充実させたいと考えている…けど、思った以上に資料が集まってない!
 uhee 
半数近くの都道府県は、得られた資料用の検体の数が一桁しかない。
福井県、滋賀県、高知県に至っては資料が1個だけ!
(資料数ゼロの県がないのがまだ救いなのかな…)

いらすとや日本地図

資料に必要な歯は、歯医者さんなどで抜いたような、いらない歯。
特に、戦没者に近い時代の、高齢者さんの歯の資料がたくさんあると助かるんだそうな。
各地の高齢者さん! 要らなくなった歯はありませんか!? 古くて干からびた昔の歯でも大丈夫!!

いらすとや歯

若い人たちの歯は、いまどきの過剰流通世界で地元の食べ物ではないものを多く飲み食いしているから、分析お役立ち度が低そうな気がしている今日このごろ…




 関連サイトがジオシティーズ! 


ちょっと関連サイトを見に行ってみたら…

▶ 国立沖縄戦没者墓苑 
 めちゃくちゃジオシティーズ乗りの時代遅れ驚愕前世紀デザインじゃないか!
 「各種ボランティア募集のお知らせ」があったけど、募集しているボランティアは清掃要員だけだった…

▶ 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B) 「元素分析による身元不明遺体の出身地域推定の検討」
 ┗ 講演の主の染田先生のサイト …だけど…
このサイト、ジオシティーズじゃないか!!
こないだ【Yahoo!ジオシティーズは2019年3月31日をもって終了】ってアナウンスされて騒ぎになってたんだけど、大丈夫かおい!?
あ、先生が呼びかけている「歯をわけてください」ポスターも掲載されてる
   実施期間:平成28〜30年度
え… nuu

…閉止決定のジオシティーズサイトのまま放置されているのは、ジオシティーズ閉鎖を知らないからなのか、それとも【実施期間が平成30年度までの話】だからちょうど都合いい… ということなのか…ぁ…




 解析の費用はどのくらい? 



さて、沖縄の「戦没者遺骨のスクリーニング」体制では、現在は同位体比分析はやってるけど、DNA鑑定はなさっていない(!)らしい。
そして、今後DNA鑑定も行うかどうかを検討中、というか、もめているらしい。
なんでだ。

DNA鑑定は、同位体比分析よりもたくさんお金がかかってしまうから、だったりするんだろうか。
同位体比分析も資料の下ごしらえに手間がかかるようだけれど、DNA解析はコンタミとか増幅とかさらにややこしそうだし、費用もお高そうにも思えるし、でも近年は大幅にDNA解析費用は相場が下がってきているしで、んー、見当がつかない。

講演会締めくくりの質疑応答タイムで解析費用について尋ねてみたかったんだけど、いやもうさすがに大きな会場に1ダースもいない聴衆の一人というどんだけ身バレしまくりかという極限状況ではノミの心臓はgakbulでフリーズだった






 日本人類学会参加者どうなってんの 



しかしこれ、 日本人類学会の一般公開講演会 だってのに、どうしてこんなに何をどうあがいても身バレ必至という閑古鳥になってたんだ。
天気がそんなに悪かったわけでもない。
なにかものすごい問題でもあったんだろうか。
一般市民はショックを受けてますぞ。

脳科学研究教育センター主催の講演会 みたいに、出席を教育のコマ扱いにするなどすれば少しは学生で席が埋まったろうに…(脳科学研の講演会では講演を聞かずにスマホで内職してる学生がいたけど)

日本人類学会講演会『歯は生まれ故郷の記憶を刻んだタイムカプセル 同位体比分析による戦没者遺骨鑑定の試み』は、
「市民向けとしてとても有意義で良い企画だったというのになんなんだこの集客力は」という残念感もかなり強かったわけで…



「前代未聞な閑古鳥ショック講演会だったけど、これはもっともっと知られて欲しい課題で賞」 



そんな賞を差し上げたい。

こんなに「誰も見てないスゴイ演題」に遭遇してしまうと、なんか裁判傍聴芸人さんたちの気持ちが思い切り実感できたような気がするですぞ。


※ 講演のスライドで染田先生は「いらすとや」作品を多用なさっていたので、このページもあやかって「いらすとや」作品を貼り付けてみています。




その後のメモ:



→『ミニ特集:考古学の本 日本 編纂書』
→『ミニ特集:考古学の本 日本 その1』
→『ミニ特集:考古学の本 日本 その2』
→『ミニ特集:考古学の本 日本 その3』
→『ミニ特集:考古学の本 日本 その4』
 



【2018/10/31】
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