ミニ特集:生命倫理と医療問題の本 その2


『負の生命論 認識という名の罪』
『仏教と生命倫理の架け橋』
『幸福と医学』
『操作される生命 科学的言説の政治学』
いずれもゼロ年代に著された本です。
『負の生命論 認識という名の罪』
金森修 勁草書房
●負の科学史。
医学史上、数々の汚点として刻まれている悲惨な大量人体実験。
聖火病(聖アントニウスの火)と呼ばれる特異な疾患に罹ると体の至るところ、とくに手足が灼けるような疼痛に襲われた。黒く濁った患者の手足はやがて壊死を起こし、ひどい場合には突然もげてしまうこともあった。患者たちは断末魔の苦しみのなかで息絶えた。その光景が与える恐ろしさは本当に想像に絶するものだった。
やがて人々は、その病気の原因が麦角という主にライ麦の穂に寄生する黒っぽいカビのせいだと考えるようになった。パンを作るときそのカビが生地に混入し、それが中毒の元になる。
血管が痙攣して収縮し、そのため血液の流れが悪くなって末梢部の壊死を起こすのである。つまり聖火病は麦角性の壊疽だった。スピロヘータ発見後から数年たった1911年、当時ロックフェラー研究所で活動していた野口英世は、梅毒スピロヘータの不活性溶液をウサギと人間(数百人)に注射したことを公表した。
1972年に行われた「タスキーギ研究/タスキーギ梅毒実験」についても紙数を割いてある。

┗ 医学史上、最も長期に及ぶ、被験者に治療が施されなかった疾病人体実験
インフォームドコンセントがアメリカで始まったのは何十人単位の梅毒患者を1、薬を与える。2、ステージが上がってから与える(何段階も分けて)3、偽薬を与える。という恐ろしい実験を1972年に医者がやってたからなのを思い出した。 https://t.co/X8dqu8xX9y
— にゃんこ水月 (@natugaowaru) 2015, 12月 29
10世紀頃のフランスでバッカクのついた麦を粉にしてパンを食べていたため、5万人ぐらい死に「聖火病」と言っておそれられていました。死に方には2パターンくらいあり、少量のバッカクを毎日少しずつ食べるので1~2ヶ月経ってから手足が腐って死ぬ場合
— 遍在groupsounds玲音 (@henzai_lain) 2014年10月19日
とある仕事の関係で金森先生の著作を集中的に読んでいるのだが、『負の生命論』所収の「LSDの産婆術」が特に面白い。基本線はダゴニェの薬学のエピステモロジーを引き継ぐ仕事だが、精神病理学へ踏み込んでいくあたりはフーコー的でもある。
— しずく (@ksidktnz) 2016年4月25日
『負の生命論 認識という名の罪』(金森修/勁草書房)内容が内容であるためか、金森氏が取り乱している様子が窺える。医療や薬物などにまつわる人体実験の倫理というのはちょうど自然を擬人化する理解の反対、つまり、人と物として見ること(どこまで客観化してしまうか)とつながるのかもしれない。
— 笑う月の裏側 (@Warautsukinoura) 2013年9月26日
![]() |

『仏教と生命倫理の架け橋』
鍋島直樹、井上善幸 編 法蔵館
●西欧、タイ、日本など、各国の仏教関係者が、バイオな生命倫理のフィールドをめぐってそれぞれの考察をご開陳。
研究のバックは天下の文部科学省。
仏道が科学を取りなすシンポジウムの成果を御覧じろ!
こちらで紹介

![]() |

『幸福と医学』 シリーズ転換期の医学 3
岡本道雄, 井村裕夫 編 岩波書店
「ここから先は説明はいいよ、任せるよ」という人が結構います。インフォームド・コンセントができるのじゃなく、情報を与えながら話している間にパターナリズムが育つのです。これをインフォームド・パターナリズムといいます。
「パターナリズム」というのは、支配側の力関係にある者が、本人の意志をさておいて、大きなお世話的な意思決定をやらかすこと。
ワンパターンとかな意味の言葉じゃないです。